「マーサの愛しい女主人」


毎年サクラの老木が実をつけると、マーサは、例の縁に透かしの入った、白くて丸いイギリス製の年代ものの皿に、尖った緑の葉と真紅のサクランボを山と盛り、牧師のもとに届けたが、牧師の妻は、夫が毎年顔を赤らめ、喜ぶと同時に恥ずかしそうに、なにか特別なことをされたかのように、マーサに感謝する、その本当の理由を知ることはついぞなかった。
(「マーサの愛しい女主人」『女たちの時間 レズビアン短編小説集』より)
 先日、古書店で買ったガラスのボウルにサクランボを入れてみました。果物はほとんど何でも大好きですが、特にこの時期はベリー類、モモやネクタリン、ブドウ、サクランボなど目に鮮やかで種類も豊富で、スーパーの果物売り場にいると幸せです(買いすぎないようにしないと!)。

『女たちの時間 レズビアン短編小説集』は女性作家による女同士の友情や愛情をテーマとした短編集で、セレクトがすばらしいです。「レズビアン」とタイトルに入っているためなんとなくいかがわしいようでもありますが、中身は全くいかがわしくないです。「マーサの愛しい女主人」(セアラ・オーン・ジュエット著)はその中の一篇です。舞台はニューイングランドで、由緒ある田舎の屋敷に仕える女中のマーサが主人公です。不器用な娘だったマーサはボストンからきた魅力的なミス・ヘレナの親切な教えにより、有能な使用人となります。娘時代に出会ったマーサとミス・ヘレナが再会したのは40年ほどもの時が経ってからでしたが、マーサは憧れのミス・ヘレナに倣い、毎年初夏には庭の木からサクランボを収穫し、年代物の皿に盛って牧師館に持って行くのでした。久しぶりに読み返してみましたが、ニューイングランドであること、作品のハイライトとなる季節がちょうど今頃であることなどから情景が目に浮かぶようで、今の気分にぴったりでした。旧き良き時代のエッセンスが抽出されている感じで、さわやかです。


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