Remarkable Creatures, Tracy Chevalier

Mary Anning, 1799-1847
She sells seashells on the seashore
The shells she sells are seashells, I'm sure
So if she sells seashells on the seashore
Then I'm sure she sells seashore shells.
【書誌情報】
Tracy Chevalier, Remarkable Creatures,Plume, 2009

【あらすじ】
自然科学に興味を持つエリザベス・フィルポットは、兄が結婚し、持参金がないことから結婚できるあてのない姉妹と共にロンドンから海辺の街、ライム・リジスに引っ越す。浜辺を散策して化石を探す内に、家具職人の娘、メアリー・アニングと親交を結ぶ。メアリーは幼い頃から日々の糧のために化石を採掘し、観光客や地元の名士に販売していた。やがて、メアリーの採掘した「ワニ」の化石は大英博物館に買い上げられ、古生物学者も化石に注目し始めるが、女性であることと社会的地位の低さからメアリーの名が表に出る機会はほとんどなかった。

【コメント】
メアリー・アニングは実在の人物で、ライム・リジスでいくつかの恐竜の化石を発見し、英仏の古生物学者とも交流がありました。エリザベス・フィルポットはメアリーに比べて知名度が低いですが、魚類の化石を採掘し、死後そのコレクションはオクスフォード大学に寄贈され、現在でも同大学の博物館に展示されているそうです。本書に登場する学者や、化石コレクターも実在の人物が大半です(作者による解説より)。「彼女は浜辺で貝殻を売っている」という早口言葉はメアリー・アニングを題材としているとのこと。

内容は、オールドミスとオールドミス予備軍の娘さんが浜辺で化石を採掘しているというなかなか地味なものです。メアリーとエリザベスは年齢や階級の違いを越えて、共通の興味を持つ者どうし、仲良くなります。貧しく教育がないメアリーの代わりにエリザベスが地位や発言の機会がある男性達に対して、メアリーの権利を守るべく行動する姿に溜飲が下がります。メアリーの母親も重要な役割を担っています。粗野な田舎者という第一印象に反して、化石が売れ始めると意外な商才を発揮し、娘に対する厳しめのコメントもいい感じです。海辺の女性達の生活は基本的に単調ですが、化石採掘は思ったよりも危険な命懸けの作業で時々驚くようなドラマチックなことも起こります。

賢い登場人物の小説を読むのは気持ちが良いですが、姉妹3人が働かずにある程度余裕のある生活をできる収入があるにもかかわらず、 持参金がないから、という理由で20台で結婚を諦め、オールドミスとして余生を過ごす覚悟を決めなければならないエリザベスの状況は世知辛いです。メアリーの方は労働者階級に属し、持参金という習慣はなかったようですが、重要な発見をして名声とお金を得たので、却って結婚はしないのでした。それ故に相手に対して反感を覚えることがあってもなお、二人の絆は固いものです。

シュヴァリエは作品中に「青」、「絵画」、「ターバン」等のモチーフを必ず入れているようで、本書にもターバンがチラッと登場します。

コメント