Gatsby's Girl(本)

Ginevra King

【書誌情報】
 Caroline Preston, Gatsby's Girl, Houghton Mifflin, 2006

【あらすじ】
シカゴの富豪の娘、ジネヴラ・ペリーは16歳で駆け落ちを試み、戒めとして寄宿学校に入れられる。同級生の紹介でプリンストン大生のスコット・フィッツジェラルドと出会う。フィッツジェラルドは軽薄だが美人のジネヴラに恋をし、大学から何通ものラブレターを送り、ジネヴラも応じたが、ジネヴラはナルシスティックなスコットに辟易し結婚には至らず、軍人と結婚し裕福に暮らす。一方、フィッツジェラルドは作家として成功するが、結婚生活は破綻し、転落していく。『偉大なギャツビー』のヒロイン、デイジーのモデルとなったジネヴラ・キングを題材としている。

【コメント】
大富豪のお嬢様で、何不自由なく育てられたジネヴラ視点の一人称小説です。学校で古着の寄付を募られたときは「これしかないから」という理由で新品の服をあげてしまったり、大恐慌のときも大きな影響は受けないほどの恵まれた環境で、その上美人で男性にも人気があり、彼女の人生のほとんどのことが思い通りに進むようです。フィッツジェラルドと別れた後はすぐにハンサムな軍人と結婚し、子供も生まれます。

一方、ゼルダと結婚し、『偉大なギャツビー』等の小説を執筆してジャズエイジの寵児となったフィッツジェラルドはパリで華やかな生活をしますが、妻は心身の不調を来たし、小説家としても次第に人気を失います。ジネヴラはシカゴでゼルダに会い、後にはスコットと再会します。

ジネヴラ・ペリーの境遇と生活は一般人にはうらやましいようなものですが、本人は何事にもあまり一生懸命ではなく、何でも思いのままにできるにもかかわらず受動的です。中年になってフィッツジェラルドに再会する頃には、置かれた環境は対照的とはいえ、同じように若さと輝きを失い、失望しています。対して、ジネヴラの妹のエヴィーは勉強熱心で、名門の女子大に通い、ふさわしい伴侶を見つけて結婚後も充実した生活を送ります。「女はかわいくておバカさんなのが最高よ」という『ギャツビー』のデイジー・ブキャナンの台詞は男性が女性に言わせたいものであって、自分がかわいくてあまり頭は良くないと自覚している女の子が、「私の人生は最高よ」とは必ずしも言えないことを、この小説は言わんとしているように思いました。

ジネヴラは自分の名前がレオナルド・ダ・ヴィンチの「ジネヴラ・ド・ヴェンチ」に由来し、「父はジネヴラの肖像画を美しいと思ったみたいだけど、私はちょっと馬っぽいと思うわ」と言っています。

ワシントン国立美術館で撮影
 実を言うと『偉大なギャツビー』は映画しか見ておらず、フィッツジェラルドは短編の「バビロンに帰る」しか読んでいないというていたらくです。本書は『偉大なギャツビー』を読んだ人の方が楽しく読めると思います。

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