The Importance of Being Earnestに登場するフィンガーフード

ヴィクトリア朝のお茶会
Why cucumber sandwiches?  Why such reckless extravagance in one so young?
【書誌情報】
Oscar Wilde, The Importance of Being Earnest,1895

【あらすじ】
Ernest(真面目な、誠実な、という意味のearnestと同じ発音)という名前の架空の人物を巡る4人の男女のドタバタ喜劇。

【コメント】
オスカー・ワイルドはヴィクトリア朝の上流社会に取材した喜劇をいくつか書きました。本作はジャックとアルジャーノンという男性が自分の名前を「アーネスト」だと恋人に騙り、騙された女性達は「まあ、ステキなお名前」といってそれぞれ婚約するものの、ジャックの田舎のマナーハウスに4人集結すると男たちの本名がバレて…という、ややバカバカしいストーリーです。台詞はところどころニヤリとさせられるひねりのきいたもので、女の子たちの暴走ぶりもおかしいです。

印象的なのは一つの戯曲の中でこれだけ色々食べるのも珍しいのではないかというくらい、登場人物がしょっちゅう何か食べていることです。十数年前に初めて読んだときには「キュウリのサンドイッチ」が高級品として扱われていることに驚いたものですが、それ以外にも紅茶と一緒に食べる軽いフィンガーフードのようなものを食べること、食べること。

本作に登場する食べ物は以下のものがあります。当時のイギリス上流階級の食生活が垣間見られるようで興味深いです。食べ物に関する情報はWikipediaを参照しました。

  • キュウリのサンドイッチ 耳を落とした薄切りのパンにバターを薄く塗り、皮をむいてレモンジュースと塩で味付けをした薄切りのキュウリを挟んだ細長いサンドイッチ。近年はアメリカ発祥の、クリームチーズやスモークサーモンを挟んだバリエーションもあるものの、イギリス式のキュウリのサンドイッチはキュウリだけを挟みます。キュウリのサンドイッチは栄養価が低く、ヴィクトリア朝には、食べるときに第一に栄養面を考慮する必要のない、有閑階級の食べ物とされ、アフタヌーン・ティーには欠かせないものでした。一方、労働者階級にはより栄養価の高い、たんぱく質の挟まれたサンドイッチが好まれました。
  • パンとバター ヒロインの一人、グウェンドレンは、Gwendolen is devoted to bread and butter.(パンとバターに目がない)と従兄に言われます。パンとバターといえばイギリス人にとっては日本人にとってのお米と海苔のような主食だと思うのですが、それにdevotedというのは不思議な感じがします。もしかすると、フレンチトーストに似たbread and butter puddingのことなのかもしれません。
  • ケーキ グウェンドレンはもう一人のヒロイン、セシリーを自分の恋敵だと思い込みます。「この人は嫌いだけど、お茶はご馳走になろうっと」と言って、砂糖なしの紅茶とパンとバターを所望しますが、セシリーは嫌がらせにたくさん砂糖を入れた紅茶と大きく切ったケーキを出します。この、ちょっとかわいい嫌がらせにグウェンドレンは憤慨します。ケーキの種類は明らかにされていませんが、この中のどれかかと思います。
  • ティーケーキ ジャックは「私はティーケーキが嫌いなんだ」と言います。Tea Cakeについては国によって異同があるようですが、イギリス式のTea Cakeはドライフルーツの入った甘いパンのようなものだそうです。アメリカ式のTea Cakeはスパイス入りケーキ、オーストラリアでは重く暖かいスポンジケーキをTea Cakeといい、Russian Tea Cakeはスノーボールクッキーを指すそうです。
  • マフィン 「アーネスト」と婚約したと思っていたのに、婚約者の本名が違うことを知った女の子たちが怒って退場すると、ジャックとアルジャーノンが「マフィンが好き、ケーキ嫌い」と言って、マフィンを取り合い、相手にはケーキを食べさせようとするシーンはこの戯曲の中で特におかしい場面です。ここでのマフィンは甘くないイングリッシュ・マフィンでしょう。女の子たちは、婚約者が食べているのを見て、「マフィンを食べていたのね。きっと後悔しているんだわ」と言います。女性に怒られて後悔した時にはマフィンを食べると良いのですね。


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